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林家正楽との関わり 「頼み事があるから聞いておくれ」 いつもと変わらぬ人なつっこい笑顔だが、いつになく神妙な口調でこう切り出した。 「今日は親父の命日、親不孝を絵に書いたようなあたしだが、心のつかえを和尚に 話して、少し楽になりたいんだ。」 しみじみと私の顔を見つめながらお茶とお菓子を差し出した。 |
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「ご供養いただいた仏様はあたしの親父で、ご存知のとおり紙切りの林家正楽、本名は一柳金次郎。 あたしはその次男坊だが、幼いころに親父の姉夫婦である鈴木家に養子に出されたのさ。子供がなくて 困っていた鈴木家では本当の息子のように可愛がられ、わがままに歳を重ねていつのまにかこの歳にな ってしまった。甘やかされて育ってきたせいか、つれあいも無く、見てのとおりのやもめ暮らしさ。今 となっては鈴木家の縁者はあたし一人、一柳家も後を継ぐはずだった兄貴の満太郎は戦争で逝ってしま ったし、お袋も昨年の三月に逝ってしまった。まぁあたしもじきに往くんだが。」 気を静めるようにゆっくりとお茶を飲みながらこう続けた。 |
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「自分のことなら跡継ぎが途絶えても悔いもないんだが、こころ残りがひとつある。親父のこと だ」。こう言って仏壇の引き出しから古ぼけた写真や日記などを取り出して私の前に広げて見せ た。「親父は晩年、『おれも一冊くらい本を作っておきたいものだ、そうかといって年をとると、 あまり細かい仕事は、根が尽きるし』、そう言って、結局まとめたものは一つもない。あるのは ここにある親父の写真や記録だけだ。あたしもどうすることもできずに親父の享年に近づいてし まった。もしよければ、和尚に親父の遺品を預かってもらい、少しでも次の世代に語り継いでほ しいんだ」。 いつもの潤ちゃんらしくない真剣な様子に戸惑いながらも、 |
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この日は夕方までお父上の思い出話をうかがって寺に戻った。 その後も何度かご自宅にお邪魔し元気な姿を拝見していたの 善立寺書斎にて |
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